私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「よしっ……!!」
悩んでいるよりも直接聞いてみよう!!
「水無瀬」
「!! 和泉、主任?」
意気込んでいるところで後ろから声を掛けられ振り返ると、私は思わず息を呑んだ。
──この部の鬼主任、和泉雪兎《いずみゆきと》主任。
仕事の鬼でスパルタで、自分にも他人にも厳しい主任は、顔は間違いなくこの部署で──いや、この会社で一番の美形だが、誰も近寄ろうとはしない。
「あ、あの、何でしょう?」
「今日も仕事、残るのか?」
「ぁ……はい」
私が今教育係としてついている新人の佐倉さんは、今日は午後は休みの届けを出している。
病院通いしているおばあ様の付き添いだそうだ。
新人期間も明日で終わり、個人に仕事が割り当てられはじめた時期。
彼女のできなかった仕事は、教育係の私がすべて終わらせることになっている。
じゃないと、明日の会議に出せないから。
「……そうか。俺はこれから打ち合わせがある。できた資料は俺の机の上にでも置いておいてくれ」
「わ、わかりました」
「それから、締めのある仕事は早急に終わらせてから休むように注意するのも、教育係の仕事だ。しっかりしろ」
「っ、は、はい……」
それだけ言うと、主任はたくさんの資料を抱えて部屋を後にした。
「今日もド迫力……」
だけど私がしっかりしていないのも事実。
ちゃんとしないと。
そのまえに──。
私は立ち上がると、定時帰りの優悟君を待ち伏せるため、会社の出入り口へと急いだ。