私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
未だ混乱状態の私を見て、主任がくすりと笑った。
「とりあえず落ち着け」
「は、はい」
私は大きく深呼吸を繰り返すと、姿勢を正して再び主任に向き直った。
「あ、あの……。私のこと好き、って……いつから……ていうか何で……」
「……お前が入社して何か月か経ってから、かな」
「そんな前から!?」
でもそんなそぶり少しもなかった。
主任は私の教育係だったけどものすごく厳しかったし、今みたいに優しい顔なんて見せてくれたこともなかったのに……。
「何人も新入社員を見てきたが、どれも俺が何か言えばすぐに落ち込んで誰かに慰められながら仕事をこなした。誰かの手を借りながら、自分で考えるでもなく、ただ仕事を終わらせることだけを考えた。もちろん、それが悪いとは言わない。誰かの手を借りながらも仕事さえきちんとこなすなら、あの佐倉よりはマシだ」
「ご……ごもっとも……」
手を借りるというよりも彼女の場合は私に丸投げしていたのだから、そう言われても仕方がない。
「お前だけだ。たった一人で、わからないことは聞きながらも決して誰かに頼ることなく、仕事を終わらせたのは。それだけじゃない。企画そのものの問題点にまで気づき、それに対する解決案まで提出してきただろう?」
「ぁ……」
そんなこともあった。
集中して書類を確認していたらその内容の矛盾点に気づき、矛盾点を正常化するための解決案を考えて提出した私は、後からものすごく後悔したものだ。
新人が与えられた仕事外にまで口を出すだなんて、生意気だったかもしれない、と。
「残業しながらそこまで仕事をきちんとこなすお前を目で追うようになった。だからだろうな。隠していただろう村上とのことに気づいたのは……」
主任の視線が伏せられ、眉間に皺が寄る。
何かに耐えるような、それでいて未だ色気を含むその顔に胸が大きく高鳴る。