私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
慣れない感情
思いが通じ合った京都出張から2週間。
お付き合いを始めたとて、特に変わったことはない。
いつも通りの距離感で仕事をこなす毎日だ。
だけど日曜日は一緒に出掛けたり、食事をしにカフェに行って、たくさん話をしたり、ちゃんとデートしている。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなもの、好きな本……。
最初は緊張したけれど、話しているとあっという間に時間が過ぎて、次の休みが待ち遠しくなる。
職場ではあんなにいつも通りなのに、二人の時はとろけそうなほどに甘い顔を見せてくれる主任に、いつか心臓が壊れてしまうのではないだろうかというほどに私の心臓は鳴りやむことがない。
それほどいつも通り、な、はずだった──。
「ねぇねぇ、最近和泉主任、表情柔らかくなったと思わない?」
「思う―!! この間笑ってるとこ見かけたけど、ヤバかったー!!」
「ちょっと前から秘書課の皆川さんと付き合ってるって聞いたよ!! 結婚前提なんでしょ?」
「えぇ!? そうなの!? 美男美女カップルじゃん!!」
トイレの個室の外から聞こえてきたそんな言葉に、心臓が飛び上がった。