私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
私達が付き合っているということは誰にも言っていない。
”俺達同じ部署だしさ、あんま職場でイチャイチャしない方が良いと思うんだ。配慮、っていうかさ。結婚とか諸々決まったら、一緒に報告しよう。それまで、俺達のことは二人だけの秘密、な?”
そう付き合うことになったその日に言われてから、お昼休みも屋上の隅っこで待ち合わせをしてご飯を食べたし、デートはいつも隣町だし、一緒に帰る時もこうして別々に職場を出て、どこかで待ち合わせるのが当り前。
だから私は、今も優悟君が部署に出る前に部屋を出て、エントランスで待ち伏せる。
ここなら多少人はいても、呼び出しやすい。
いつもはここで待ち合わせるわけじゃないから、不審がる人もいないはずだ。
きっと何か仕事のことで聞きそびれたことでもあったのかと思ってくれる、そう思っていた……。
「お疲れー」
「お疲れ優悟」
来た!!
数人の同僚に囲まれて笑っている茶髪の男性を認めると、私は柱の陰から一歩足を進め──「そろそろ別れた? 根暗のくらげちゃん──水無瀬と」──え……?
思いがけず聞こえたその言葉に、私は思わず立ち止まってしまった。