私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
胸の奥が気持ち悪い。
ずっと、息をするのも苦しい。
期待したら裏切られる。
人生は残酷だ。
そんなこと、わかっていたはずなのに、苦しくて仕方がない。
食事も喉を通らなくて、かろうじてお風呂には入ったものの、寝巻に着替えてベッドの上で何をするでもなく膝を抱える。
ここまでの間に3回、主任から電話が入ったけれど、出ることが出来ずに居留守を使ってしまった。
几帳面な主任のことだ。
メールなどではなく、自分の口から別れを告げようとしているのだろう。
でもそんな真面目さはいらない。
今の私には酷なだけだ。
優悟君の時のように、「わかりました」のたった一言で終わらせられる自信がない。
それだけ私にとって、主任は特別で、大切な存在になっていたんだ。
「はぁ……。恋なんて、するんじゃなかった……」
もうしばらく恋なんていらない。
何もしたくない。
ただ仕事のことだけを考えて生きていきたい。
「はぁー……」
私が再び大きなため息をついた、その時だった。
ピンポーン──、と部屋のインターホンが鳴り響いた。
こんな時間に誰だろう?
インターホンの画面を見ると、そこには深くキャップをかぶった男性が立っていた。
「はい、何でしょう?」
インターホン越しに声をかけると、「宅配です」と静かな声が返ってきた。
宅配?
何か頼んだかしら?
疑問に思いながらも玄関の扉の内ロックを外し、鍵を開ける──。
「ぇ……!?」
同時に引き開けられた扉からするりと身体をねじ込んできたキャップ帽の男に、私はこれでもかというほどに目を大きく見開いた。
「しゅ……にん……?」
帽子の下の顔は、私が再三電話を無視し続けた相手──主任のものだった……。