私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
確かな約束
「主任……何で……」
私はこの部屋に主任を招いたことはおろか、どこに住んでいるかも言ったことが無かったのに。
何で主任は、私の部屋にいるの?
何でそんなに……怖い顔をしているの?
「会社の情報網使った。ったく……電話、何で出なかった?」
静かに発せられたその言葉が、空気をピリつかせる。
怒っている。
それが確かにわかる。
だけど私は、謝罪することなくただ視線を伏せて、可愛げもなく言葉を発する。
「出たくなかったからです」
「っ、おい水無──」
「デートの邪魔もしたくはなかったですし」
「!? デート、って……」
「皆川さんとのデート中に私なんかに声をかけちゃだめですよ、主任」
「お前……」
淡々と、抑揚のない声で言葉を返せば、主任が息を呑む音が聞こえた。
そして──。
「はぁ……やっぱり由紀の言ったとおりだったか……」
由紀。
再び彼の口から出てきた名前に、私はもう限界だった。
「何のことかわかりませんけど、帰ってください!! 私は、皆が馬鹿にしていい存在じゃない!! 罰ゲームで告白したり、からかってやろうとかで付き合われて喜ぶような馬鹿じゃない!!」
こんな大きな声、初めてかもしれない。
いつも誰かに気を使いながら生きてきた。
顔色をうかがいながら、母を傷つけないように、母に嫌われないように、皆に嫌な思いをさせないようにと、息を殺して生きてきた。
だけどもう、良いよね?
だって私の人生は──私のものだから──。