私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「あぁ、そうだ」
「あぁそうだ、って……、名字が違うじゃないですか」

 騙されてはダメだ。
 主任は和泉で、皆川ではない。
 騙そうったってそうはいかない。
 私はそこまで何も考えていない人間じゃないんだから。

「ん? あぁ。そりゃ、由紀の旦那の名字だからな」
「…………はい?」

 由紀の旦那?
 皆川さんの……旦那ぁぁあああ!?

「ちょ、まっ、み、皆川さんの旦那、って……!? 結婚……っ!?」
「皆川由紀。旧姓・和泉由紀。32歳。17歳で10歳年上の男と結婚。12歳の息子と10歳の娘がいる。5年前職場復帰をして、以来秘書課で腕を振るっている。ほれ、これが証拠の戸籍謄本」

 鞄の中から一枚の紙を取り出すと、私の目の前に差し出す主任。
 それには確かに旧姓【和泉】と記録してある。

「本当だ……。でも何でこんなもの持って……?」
「由紀がコンビニで発行してくれた。変な噂が回ってるっていうのもあいつから聞いた。それでお前が誤解してるだろうから、これ持って誤解を解いて来いって」

 変な噂?
 誤解?
 未だ頭が付いて行っていない私にまっすぐに視線を合わせると、主任が再び口を開いた。

「俺の彼女は、お前しかいない。その先を考えてるのも、お前だけだ。他の女はいらない」
「っ……」

 縋るような熱い視線。
 あまりにまっすぐなそれに、目を逸らすことができない。


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