私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「……こんなところでなんですから、とりあえず、中へどうぞ」
 それだけ言うのがやっとだった。

 こんな玄関でするような話ではない。
 私はそう言うと、主任を部屋へを案内した。

 キッチンを通り過ぎ奥の自室へと主任を通すと、「どうぞ」と、真っ白いラグマットへ座るよう促す。

「失礼する」
 律儀にそう断ってから腰を下ろす主任。
 その後ろには桜色のベッド。
 ベッド脇にはクマのぬいぐるみ。

 主任がメルヘンになってしまった……。

「あの、主任。ごめんなさい、電話、出なくて……。……私、主任と皆川さんの噂を聞いて……不安になって……。帰りもお二人でどこかに行かれるようだったし、そういう仲なんだって、信じちゃって……」

「はぁー……やっぱりそうだったか。すまない。俺も、お前に何も説明してなかったからな」

「それに……」

「それに?」

 私は意を決して顔を上げると、まっすぐに主任を見つめた。

「しゅ、主任は私のことは水無瀬って呼ぶのに、皆川さんのことは由紀、って呼び捨てにしてるから……!!」
「っ!! そ、それは身内だからで──」
「でも!! それでも、そんなこと知らなかったですもん」
「!!」

 目頭が熱くなる。
 感情が溢れ出す。
 自分で求めることのできない言葉の波が、一気に押し寄せてくる。
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