私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「比べてしまったんです。名前で呼んでももらえない自分や、主任のこと何も知らない自分に気づいて、私なんて、って……」
「水無瀬……」
こんなネガティブな私なんて、愛想尽かされてしまっただろうか?
一人先走って空回りして……皆川さんにも迷惑をかけて。
「ごめんなさい。やっぱりこんな私じゃ、主任に釣り合わな──」
「雪兎」
「え?」
顔を上げたすぐそこには、主任の穏やかな顔。
「俺の名前だ。その……言おうとは、思っていたんだ。名前で呼んでほしい、と。オフの時まで主任と呼ばれるのもなんだし」
「ぁ……」
私もだ。
私も、主任のことを主任と呼び続けていた。
なのに自分だけって……。
「お前のことも、名前で呼んで良いだろうかとずっと思っていて、なのにそれが出来なくて、お前が何も言わないのをいいことにそのままにしてしまった。すまない」
「っ、そんな、主任が謝る事じゃ──!!」
「雪兎だ。……これからは、名前で呼んでほしい。これからもずっと、俺の傍にいてくれ。──海月」
「!!」
海月。
そう呼ばれた瞬間、涙腺が大崩壊を起こした。
ぼろぼろと流れ落ちる雫を手の甲で拭って、それでも流れるのをそのままに、私は笑った。
「はい──っ、雪兎さん」