私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「っと、忘れるところだった。海月、これ」
 私の身体をそっと解放し、鞄と一緒に持っていた取っ手付きの大きく平らな箱を差し出す主任。

「何ですか? これ」
「開けてみろ」

 首をかしげながら言われた通りその箱を開けてみると、桜色の綺麗なパーティドレスが包装されていた。

「綺麗……」
「明後日の創立パーティ、これを着て出席してほしい。アクセサリーはこれを」
 そう言って懐から化粧箱を取り出し開くと、中には綺麗な真珠とダイヤモンドのネックレスとイヤリングのセットが入っている。

「これを買いに行くのを、由紀に付き添ってもらっていたんだ。お前を驚かせたくてな」
 いたずらっぽく笑う主任に、私はぽーっとしていた自分の頬を叩いて意識を戻した。

「で、でもこんな高級そうなもの──」
「俺に考えがある。お前との未来のために、いろいろ考えた。虫は一気に絶滅させるのが良い、とな」
 虫?
 一体何で虫の話になった?

「当日はこれを身に付けて来てくれ。悪いことにはならない。だから……俺を信じてほしい」
 真剣な瞳でじっと見つめられると、全てがどうでもよくなりそうになる。

 私との未来のために──。

 主任は私のことを本当に思ってくれている。

 私のことを気にかけて、家まで来てくれて、話をしてくれた。

 この人のことは──信じられる。


「……わかりました。明後日、これでパーティに参加します」
「!! ありがとう」
「でも、一人にしないでくださいね?」

 職場の人達の前で親しくすることはできないだろうけれど、こんな綺麗な服を着させたまま一人にはしてほしくない。

 「あぁ。お前の席は、俺の隣だ。ずっと、な」
 「っ……」

 その確かな約束は、意外な形で守られることになろうとは、この時はまだ考えもしなかった。




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