私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
「あ、いたいた!! 水無瀬ちゃーん」
「皆川さん?」
人の波をかき分けながら駆けよってくるのは、先日振りの皆川さんだ。
「そのアクセサリー、よく似合ってるわ。ちゃんと渡せたのね、雪兎」
「はい。ありがとうございます。その、色々と気にしていただいて……」
皆川さんが雪兎さんに私が誤解しているかもしれないと言ってくれなければ。
そして戸籍謄本を持たせてくれなければ。
私はずっと誤解したまま、雪兎さんと別れてしまっていただろう。
「ふふ、いいのよ。未来の義妹のためですもの」
「み、未来の義妹!?」
ものすごくいい笑顔でそう言った皆川さんに、私は思わず声を上げる。
「これまで雪兎は訳あって仕事に集中してこなきゃいけなかったのもあって仕事漬けになっててね。息抜きもできないあいつに私も結構心配してたんだけど、これからは水無瀬ちゃんがいてくれるなら安心ね」
「え?」
「ふふ、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫。すぐに適当にあしらって、可愛い彼女のもとにかけつけるわ」
にっこりと笑って私の頭を撫でる皆川さん。
それが妙に雪兎さんと重なって、あらためて二人は双子なのだと感じる。
「それじゃ、私も運営側の手伝いがあるから、失礼するわね」
「あ、はい。ありがとうございました」
皆川さんは伝言だけ伝えると、颯爽とその場を後にした。