【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
騎士団長は拗らせてる
(うぅ、寒い……)
社交シーズンが幕を閉じた六月。
太陽から降り注ぐ日差しの強さが日に日に増してくるこの時期に得も言われぬ寒気に襲われたのは、この部屋の体感温度が急激に下がっているからなのかもしれない。
第二騎士団長専属の秘書官を務めるリーゼ・スターリングは、ともすると鳥肌が立っていそうな腕をさすりながら、冷気の発生源である己の上司を一瞥した。
彼――このエルドラシア王国で、若くして王立第二騎士団の長を務めるランドルフ・フォスターは、眉間に三本深い縦皺を刻んで、今しがたリーゼが手渡した彼宛の手紙を読んでいる。
いつもなら、濡羽色の艶やかな黒髪から覗く伏せられた彼のまつ毛の長さをこっそり眺めて堪能するのだけれど、今日は残念なことにそんな気は起きなかった。なにせ彼の目線が下へいくごとに、背後から強烈なブリザードが嵐のごとく発生しているように見えるので。
新人文官なら涙目で逃げ出していることだろう。
彼の秘書官として側で仕えて二年。彼の不機嫌顔は見慣れたものだが、こうもあからさまに苛立っていると、リーゼの仕事用の笑みも引き攣ってしまう。
(また、早く結婚しなさいっていうお小言かしらね……)
手紙の差出人は彼の母親からだった。
中身は見ていないが、内容は想像がつく。彼の母親から結婚の催促の手紙が届くのは、これが初めてではない。
どうして毎回職場に届くのかしら……と肩をすくめたくなる。が、ランドルフが母親の苦言を散々無視しているからであるのは想像に難くないので、閉口するしかない。
社交シーズンが幕を閉じた六月。
太陽から降り注ぐ日差しの強さが日に日に増してくるこの時期に得も言われぬ寒気に襲われたのは、この部屋の体感温度が急激に下がっているからなのかもしれない。
第二騎士団長専属の秘書官を務めるリーゼ・スターリングは、ともすると鳥肌が立っていそうな腕をさすりながら、冷気の発生源である己の上司を一瞥した。
彼――このエルドラシア王国で、若くして王立第二騎士団の長を務めるランドルフ・フォスターは、眉間に三本深い縦皺を刻んで、今しがたリーゼが手渡した彼宛の手紙を読んでいる。
いつもなら、濡羽色の艶やかな黒髪から覗く伏せられた彼のまつ毛の長さをこっそり眺めて堪能するのだけれど、今日は残念なことにそんな気は起きなかった。なにせ彼の目線が下へいくごとに、背後から強烈なブリザードが嵐のごとく発生しているように見えるので。
新人文官なら涙目で逃げ出していることだろう。
彼の秘書官として側で仕えて二年。彼の不機嫌顔は見慣れたものだが、こうもあからさまに苛立っていると、リーゼの仕事用の笑みも引き攣ってしまう。
(また、早く結婚しなさいっていうお小言かしらね……)
手紙の差出人は彼の母親からだった。
中身は見ていないが、内容は想像がつく。彼の母親から結婚の催促の手紙が届くのは、これが初めてではない。
どうして毎回職場に届くのかしら……と肩をすくめたくなる。が、ランドルフが母親の苦言を散々無視しているからであるのは想像に難くないので、閉口するしかない。
< 1 / 170 >