【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
（違う、違うのに……）

　堰を切ったように溢れ出る悲しみが喉を満たして、言葉が紡げない。
　何度もかぶりを振るリーゼの瞳からは涙が次々とこぼれ落ちた。頬を伝った雫が、リーゼのドレスに濃紺のシミをまだらにつくる。

「……君の考えはよくわかった」

　怒りに震えた低声で、ランドルフがそう告げる。

「だが、残念だったな。俺が同意しない限り、離縁が承認されることはない。君の運命はあの日、契約書にサインをした時から決まっていたんだ」

　彼は冷笑を浮かべ、リーゼを愚か者と嘲笑うように睥睨した。
　その蔑むような眼差しに射貫かれ、リーゼの胸に灯ったのは悲しみではなく、怒りの炎だった。

（私の……何をわかっているというの？）

　ランドルフは何もわかっていない。
　リーゼがどれだけ彼に焦がれているのかを。どれだけ彼の心を欲しているのかを。

「あなたは、何もわかってない……！」
　
　リーゼは突き飛ばすように彼の胸を押した。不意を突かれたランドルフが瞠目する。

「私の気持ちなんて、何も知らないくせに！」

　眦を決し、リーゼは激情に身を任せて叫んだ。頬は涙で濡れ、頭の奥がカッと熱くなる。
　
　衝動は止まらなかった。
　体に巻き付いていたランドルフの腕を乱暴に振り払うと、リーゼはそのまま弾かれたように資料室を飛び出したのだった。
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