【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「…………そうだ、仕事……」

 ひとしきり泣いた後、リーゼは涙を拭いながら顔を上げた。
 正確な時間はわからないが、昼休みは過ぎている頃だ。

 戻らなきゃ、と思いはするものの、立ち上がる気力が起きない。
 目蓋は腫れぼったいし、鼻どころか顔全体が熱を持っている。鏡を見なくてもひどい顔をしているとわかる。

 結局顔の熱が引くまで三十分、リーゼはその場で蹲っていた。
 気まずく思いながら執務室へ戻ると、心配顔の同僚(ロバート)が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか、リーゼさん?体調が優れないって聞きましたけど……」
「戻るのが遅くなってごめんなさい。もう大丈夫だから」
「え、でも、リーゼさんは午後休むって、団長が……」

 ロバートの言葉に一瞬目を瞠る。
 ランドルフが気を遣ってくれたのか。それとも、リーゼと顔を合わせたくなかったから?
 そう考えるのは穿ちすぎだろうか。
 
 ただ、いずれにせよその配慮はありがたかった。泣きすぎたせいか先程から頭がボーッとしていて、きっとこのまま職場にいても使い物にならないだろうから。

 リーゼは同僚に断って、言う通り帰ることにした。ランドルフと顔を合わせることはしなかった。
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