【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 屋敷へ戻ると、予定よりかなり早い帰宅に家政婦のエイダは大層驚いていた。
「どうなさいましたか?」と眉を下げて訊ねる彼女に、リーゼは「なんでもない」と作り笑いで答えるので精一杯だった。
 一直線に自室へ向かい、鍵をかけてベッドに倒れ込む。枕に顔を埋めると、また目頭が熱くなってきて。
 リーゼは思考を放棄するように、固く目を瞑った。
 
 遠くから小鳥の囀りが聞こえてきて、リーゼはゆっくりと顔を上げ、瞼を開いた。
 カーテンを開けたままの窓からは、柔らかい朝日が降り注いでいる。

(あさ………………朝?)

 認識するやいなや、リーゼはベッドから飛び起きた。
 昨日帰ってからの記憶がすっぽりと抜け落ちている。いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
 
 慌てて時計を確認すると、時刻は九時きっかりを指していた。始業時間ジャスト。完全に遅刻である。
 
 しかも今のリーゼの格好は、皺だらけになった仕事着のドレスのまま。風呂にも入っておらず、このまま仕事に向かえるはずもない。

 リーゼは色々と泣きたい気持ちになりながら、ベルを鳴らしてエイダを呼んだ。
 急がなければならないけれど、身なりを整えなければ外にも出られないので。

「リーゼ様!ご加減はいかがでございますか?!」

 程なくして、血相を変えたエイダが部屋に飛び込んできた。
 どうやら随分と心配をさせてしまったらしい。リーゼは申し訳なく思い、眉尻を下げた。
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