【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「いかがなさいましたか?」

 明らかに顔色が変わったリーゼへ、マーティンがすかさず訊ねる。リーゼは難しい顔をして、おもむろに口を開いた。

「お母様が、倒れたみたいなの。このまま、身罷ってしまうかも、しれないって……」
「なんと……!」

 これには冷静沈着なマーティンも驚愕して目を瞠っていた。
 リーゼ自身も信じられない。

 母と最後に会ったのはリーゼの結婚式だが、その時もフォスター家が所蔵している名匠の絵画を前にはしゃいでいた。
 病の気配なんて微塵もなかったというのに、一体どうして。
 
 父も母も散財を繰り返すどうしようもない人間だが、一応リーゼをここまで育ててくれた。それを見捨てるほど薄情ではない。

「マーティン、悪いけれど馬車を用意してもらえないかしら。私、一度実家へ帰って様子を見に行くわ」

 居ても立っても居られず立ち上がると、マーティンも神妙な顔で頷いた。
 
「かしこまりました。今すぐ手配いたします。旦那様にも私めからお伝えいたしましょう」
「……ありがとう、マーティン」

 部屋へ戻って出かける支度をしたリーゼは、フォスター家の馬車に乗り込んだ。
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