【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 パンッ、と炸裂音が鳴り響いた。
 バサバサと翼をはためかせながら小鳥が飛んで行く。
 のどかな林道で本来聞こえるはずのない、人工的な音。続いて苦しげな男性の呻き声が窓の外から微かに聞こえてくる。
 同時に馬車が急停車して、衝撃でリーゼは座席から転げ落ちた。

「な、なに……?」
 
 向かいの座席に打ち付けた頭をさすりながら身を起こしたリーゼは、突如訪れた異常を察知してその身を強張らせる。

「何者だ!!!」

 御者の隣に座っていたはずの護衛の怒声が馬車の窓ガラスを震わせた。
 リーゼは咄嗟にカーテンを閉め、身を隠すように頭を抱えて床に蹲った。
 馬車の外がにわかに騒がしくなり、リーゼの心臓は早鐘を打つように胸を激しく突いている。

(一体どうしたの?まさか強盗?)

 緊張と恐怖が体を縛って、呼吸もままならない。
 この辺りは人気は少ないものの、治安はさほど悪くない。盗賊が出るなんて話は、リーゼが生まれてから一度も聞いたことがなかった。
 
 恐怖に慄くリーゼの耳に飛び込んでくるのは、刃が激しくぶつかり合う音、切羽詰まった男の叫喚。
 呼吸をしようと口を開けば悲鳴も一緒に飛び出してしまいそうで、リーゼは口元に手を当てて堪えていた。
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