【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「貴様ァッ!!!!!」

 ボロ小屋を吹き飛ばすほどの咆哮が聞こえたかと思うと、次の瞬間、リーゼの上に乗っていた男が吹き飛んでいた。
 壮絶な音と共に男の体が壁に打ち付けられ、リーゼは頽れる男と凄まじい怒気を発するランドルフを交互に見た。
 どうして彼がここにいるんだろうか。もしかしたら、恐怖のあまりリーゼが生み出した幻なのかもしれない。
 リーゼは呆気に取られたまま、こちらへ近づくランドルフを見上げた。

「リーゼ!!」
「ランドルフ……さま……?」 

 名を呼ばれると同時に、リーゼの体が逞しい腕に囲われた。ガッシリとした胸に顔が押し付けられると、もうすっかり覚えてしまった彼の匂いが肺いっぱいに満たされて、リーゼの眦に安堵の涙が浮かぶ。

(助けに、来てくれた……)

 夢でも幻でもないと確かめるように彼の背中に腕を回すと、より一層強く抱きしめられた。

「リーゼ、すまない……こんな目に合わせてしまって……」 

 悲痛に震える彼の声がリーゼの鼓膜と心を震わせる。
 あなたのせいじゃない、とそう言いたくて、でも感情が渋滞して言葉にならなくて、リーゼはギュッとしがみつくように彼の背に回した腕に力を込めた。
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