【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

　力の差は歴然だ。まるで子供が大人に戦いを挑んだようなものだった。
　男はランドルフの脚の下でジタバタと足掻いている。

「クソッ、クッ……残念だったな、テメェの大事な女は俺がもう汚して、ッぐああああっ！」
「気が変わった。やはり貴様は今ここで殺す」

　地を這うような低い声で告げたランドルフの目は、氷のごとく冷えていた。そこには一片の慈悲も浮かんでいない。
　ランドルフに踏みつけられ、その気迫を間近で浴びる男の顔には恐れがまざまざと張り付いていた。

（このままだと本当に殺してしまうわ……！）

　敵に同情する余地はまるでないが、このまま殺してしまうのはよくない。この男は、未遂とはいえ王族の暗殺という国家の大罪を犯そうとした。そんな男を個人で断ずれば、ランドルフが咎められてしまう。
　リーゼは声を張り上げた。

「ランドルフ様！私はまだ何もされていません！それにその男は二年前のフィリス王女の事件に関わっていたようです！殺してはいけません！」
「……本当か？」
「は、はい！その男が先程自分で王女殿下を殺害するために雇われたと……」
「そんなことはどうでもいい。リーゼ、君は無事なのか？」