【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

ずっと言えなかった言葉を

 額を撫でる大きな手が温かい。
 その手はリーゼの輪郭を伝って、慈しむように頬を撫でる。

(だれ……?)

 優しい手つきはリーゼの心を穏やかにしてくれる。もっと、とねだるようにリーゼはその手に頬を擦り付けた。
 だがそんなリーゼの想いとは裏腹に、指先はリーゼの肌を離れた。その手つきが名残惜しそうに感じて、リーゼは追いかけるように目を開けた。

「……ここ、は……?」

 光が溢れて、リーゼは瞬きを繰り返す。
 そうしてクリアになった視界に映ったのは、リーゼを見下ろし瞠目するランドルフの姿だった。

「リーゼ!気がついたか……」

 目覚めたリーゼを見て、ランドルフは喜んでいるような、悲しんでいるような、複雑な表情を浮かべ、それでも安堵したように息を吐いていた。

 リーゼ自身はベッドに横たわっているようだった。
 シーツに施された刺繍は見覚えのない物だ。質の良さそうな家具がひとしきり揃っていてどこかの屋敷の一室であることは窺えるが、ランドルフの屋敷でも、フォスター伯爵家のタウンハウスでもないようだった(リーゼの実家にこんな立派な家具は存在しない)。
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