【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「怪我は頭を打っただけで、それ以外はないと思います。だから、そんなに心配いただかなくても大丈夫です」

 安心してもらおうとにっこり笑ってみせると、彼はグッとしかめ面をしたままだ。

「心配するに決まっている。君が目覚めるまで気が気でなかった。本当に、無事でよかった……」

 膝を折ったランドルフが、おずおずとリーゼの頬を撫でる。その手つきはガラス細工を扱うかのようにひどく繊細で、それでいて何かを恐れているかのようだった。

「あの、ランドルフ様……」
「…………水をもらってこよう。それから何か食べるものも」

 どうしてそんな顔をしているのか訊ねたかったが、ランドルフはリーゼから逃げるように立ち上がった。部屋を出て行くランドルフをリーゼは何とも言い難い気持ちで見つめていた。

 ランドルフに助け出された後、気絶をしたリーゼは、極度の緊張状態に置かれていた反動もあってか、ほぼ丸一日眠りについていたらしい。どうりで目覚めた直後にランドルフがあれほど心配するわけである。

 ここは近隣の街の宿屋で、ランドルフが運び込んでくれたとのことだ。
 この部屋は最上級の特別室。ランドルフはこの部屋を含めて同じ階の全ての部屋を借りたらしい。暴漢に襲われたリーゼに配慮して、ということらしいが、やりすぎ感は否めない。
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