【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

本当の夫婦に

 そして三日後――
 宣言通りランドルフは朝一番に馬を走らせ、リーゼが投宿する宿屋へ迎えに来てくれた。
 つい半日前に会ったばかりのランドルフを出迎えて、リーゼは苦笑を漏らす。結局彼は、今日になるまで毎日リーゼに会いに来てくれたのだ。

「こんなに早くいらっしゃるなら、泊まってくださればよかったのに」

 換気のために開けた窓からはパンが焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。今、宿屋の厨房ではせっせと朝食の支度が行われていることだろう。
 決算前の残業でクタクタになった日ならリーゼも寝ている時間だ。今は引きこもり生活で体力を持て余しているので、朝の身支度はとっくに終わっていたけれど。
 
「……残念ながら、俺は君の隣でただ眠れるほどの理性は持ち合わせていないからな」

 自嘲気味に肩をすくめながら、それでもリーゼの頬に挨拶の口付けを落としてくれるランドルフに、リーゼの口角がピクッと引き攣った。

(私、いつまで病人扱いなの?)

 もう頭の腫れはすっかり引いているというのに。体を動かすことは得意ではないが、一週間も閉じこもっているとそろそろ外へも出てみたくなる頃である。
 この調子だと永遠に体を気遣われて、最悪屋敷に閉じ込められるんじゃないだろうか。あり得そうな未来にリーゼは閉口した。そして、一つ決意を固める。

「ランドルフ様、とりあえず朝のコーヒーでもいかがですか?私も朝食がまだなので、よければ一緒に」

 今はまだ、実行に移す時じゃない。
 リーゼはとりあえず、早く到着しすぎたランドルフを朝食へと誘ったのだった。
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