【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 帰りは、馬車は使わずランドルフの馬に乗せてもらった。
 まともに馬に乗るのが初めてだったリーゼには、頬を打つ風も、遮るもののない景色が流れていく様も何もかもが新鮮だった。
 途中、何度か休憩を挟み、二人はのんびり王都を目指した。屋敷に到着したのは、太陽がちょうど空の真ん中に登った頃だった。

「おかえりなさいませ、リーゼ様」

 ホッとした様子で出迎えてくれたマーティンとエイダの顔を見ると、帰るべき場所に帰ってきたのだと実感する。リーゼは相好を崩して、まずエイダにハグをした。

「ごめんなさい、心配をかけて」
「とんでもない。ご無事でなによりでございます。本当に、大事に至らなくてようございました」

 続いてマーティンにハグをしようとすると、背後に立っていたランドルフに肩をポンと叩かれた。思いの外力強く、リーゼはその場で踏みとどまった。

「疲れただろう。部屋でゆっくり休むといい」
「は、はい」

 彼の言葉に圧を感じるのは気のせいだろうか。リーゼは若干の戸惑いを覚えつつ、ランドルフに促されるまま自室へ向かった。その背中をマーティンが生温い目で見守っていたことを、リーゼは知らない。
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