【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 その夜、入浴を済ませたリーゼは緊張の面持ちでランドルフの部屋の前に立っていた。
 三度深く息を吸い、それから胸の前で拳を作った。気合いを十分に入れなければ、夜這いなんて大胆な真似は到底できない。

(だって……私からもう体は大丈夫って言わなきゃ、ずっと病人扱いされちゃう)

 先程も、ランドルフが部屋に来てくれないか三十分ほど待っていたが、彼の訪れはなかった。「部屋でゆっくり休め」という彼の言葉は本当にそのまま文字通りだったらしい。

 自ら彼を求めるなんて、はしたない自覚はある。
 でもリーゼの体の芯はずっと疼いていた。想いを通じ合わせてから、キスを重ねて、そこで終わり。もっと深くまで触れ合いたいという原始的な欲求が、この一週間ずっと燻っていたのだ。
 だから、彼に触れてほしい。そのためにお願いをしにいく。
 何度となく自分に言い訳をしながら、リーゼは緊張の面持ちで扉をノックした。

「リーゼ?」

 扉はすぐに開き、ランドルフが顔を覗かせた。

「ランドルフ様、お話があります」

 決意を固めた真剣な表情でリーゼが告げると、ランドルフはギュッと眉間に皺を寄せて頷いた。二人並んで、ベッドに座る。
 リーゼの意図に反して、二人を包む空気はピリピリと張り詰めたものになっていた。ランドルフがものすごく険しい顔をしているから。

 もしかして寝る直前だったんだろうか。連日仕事終わりにリーゼの元を訪れていたのだ。さぞ疲労も蓄積していることだろう。
 そうすると、リーゼはただ彼の睡眠を邪魔をしにきただけになる。この部屋に来る前に固めてきた覚悟がガラガラと崩れ落ちていく。
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