【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(今日はお話だけして、するのは次のお休みにでも……って言えばいいのよ。うん、そう!)

 及び腰になる心を叱咤して、リーゼはランドルフに向き直る。
 逸る気持ちのまま口を開き――そこで止まった。

(な、なんて言えばいいの……?)

 彼に抱いてほしいとそればかり考えていたせいで、肝心の誘い文句を考えていなかった。
 どう切り出せばいいのかわからず、膝の上に置いた手をモジモジさせていると、不意にランドルフがその手を取った。リーゼを見つめる灰褐色の瞳は憂いで揺れている。

「俺にできることであればなんでもする。だからどうか、出て行くことは思いとどまってくれないか?」
「…………なんの話ですか?」
「何って、やっぱり俺を許せないから出て行こうとしたんじゃないのか?」
「え、ええぇ?」

 全然違う。むしろランドルフがまだあの件を引きずっていたことに驚く。
 
「そんなわけないじゃないですか。それなら今日一緒に帰ってきたりしません」

 無理矢理暴かれそうになったことは確かに悲しかった。だが、その悲しみはこの一週間有り余るほど彼に注いでもらった愛情で癒してもらっている。

「私、ランドルフ様のことをお慕いしていると伝えたはずです」

 好きだからといって、なんでも許せるわけではないけれど、好きだからからこそ許せることもある。
 リーゼは手を伸ばして彼の頬に触れた。顔を近づけて、その唇にそっと口付ける。
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