【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

「奥様。旦那様がお呼びでございます。すぐに大広間にいらっしゃるようにと」

　穏やかな声がアドリアナの猛攻に割って入った。見ると、ランドルフの斜め後ろに侍女が立っていて。ノックの音はアドリアナの声にかき消されて聞こえなかったが、ランドルフが扉を開けたのだろう。
　リーゼは救いの手を差し伸べられたような気分になった。

「あらまあ、そうなの？それなら行かないとね。じゃあ、リーゼさん、また後で」
「はい、お義母さま」

　安堵のため息は口内に留め、リーゼは笑顔で見送った。
　もちろん親切にしてくれるアドリアナのことは好きだが、ランドルフに対する小言を聞かされると、胸がチクチク痛む。このタイミングでやってきてくれた侍女には感謝しかない。
　
　扉がパタンと閉まると（去り際にアドリアナがランドルフを睨んだ気がした、気のせいだと思いたい）、ランドルフがこちらへ歩み寄ってくる。
　その顔には苛立ちと疲労が色濃く浮かんでいて、リーゼは苦笑をもらした。

「まったく、永遠に終わらないかと思ったぞ」
「あはは……」

　ないとも言い切れないので、リーゼは笑って言葉を濁す。