【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 夜会が始まるまで、まだ少し時間がある。差し出された手を取って、リーゼは導かれるままランドルフと共にソファへ腰掛けた。
 座った瞬間、隣から重々しいため息が聞こえてくる。

「これだから家に帰るのは嫌だったんだ。結婚式の二の舞だろう」
「結婚式、ですか?」
「ああ。結婚式の時にも散々母に小言を言われたからな。君のドレスがシンプルすぎるのはおまえの甲斐性がないからだと、さんざんな」
「そ、それは、すみません……」

 先ほどアドリアナに言われた「ウェディングドレス地味すぎ問題」は、ドレスを準備する時にも再三言われていたのだが、豪奢なドレスなど自分には分不相応だと思って断ったのだ。まさかそれでランドルフが責められるなど思わなかった。

(もしかして、結婚式の時に不機嫌だったのはそれが原因?)

 思えば、結婚式の時も今と同じように不機嫌顔だったような気がする。直前に小言を食らっていたら、ムシャクシャしてリーゼの姿など目に入れるどころではなかったのかもしれない。

 当時から決してリーゼに関心がなかったわけではないのだとわかって、申し訳ないと思いつつもリーゼの顔に自然と笑顔が浮かぶ。

 柔らかく綻んだ頬に、ランドルフが手を伸ばした。すっと指の側面で頬を撫でられる。彼の指の感触を肌はつぶさに感じ取って、リーゼの顔に熱が集まった。
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