【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 ダークブラウンのジャケットにはリーゼの瞳の色に近い糸で刺繍が施されていた。クラヴァットを留める宝石は、リーゼのドレスに合わせたイエローダイアモンド。
 まるで己がランドルフを縛っているようで。リーゼのものだと言わんばかりの彼の装いは、何よりリーゼの体を熱くさせた。

「だがこんなにも美しい君を他の男の目に晒すのは許しがたいな」
「えっ……あの、そんな風に思うのはランドルフ様だけかと……」

 今夜の夜会は、リーゼ以上に着飾った美しい花たちがさぞ多く咲き乱れることだろう。その中で人の目を引くほどの容姿をリーゼは持ち合わせていない。埋没すること間違いなし。
 
 次期フォスター伯爵夫人としてそれではいけないとは思うものの、ランドルフだけがリーゼを映してくれればそれで十分なのだが。
 何かが気に食わなかったのか、ランドルフはグッと眉間に皺を寄せている。

「何度も言っているが、君は自分に対する認識を改めた方がいい」
「ど、どういう意味ですか?」
「君のその魅力に魅了される男は大勢いるということだ」
「だからそんな人いるわけ……」

 反駁は、ランドルフの唇に呑み込まれてしまった。
 舌を絡め取られ、口内をグチュグチュとかき回される。

「君は分からず屋だ。俺はこんなにも君に魅了されているというのに」
「あっ、んぅ……ランドルフさま、だめ……」
「言っても聞かないからな。体に覚え込ませないと」

 逃げようと仰け反ったリーゼの体は、ランドルフは腕で囲い込まれた。
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