【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 二年前、当時この国の第一王女だったフィリス・ミレイ・エルドラシア殿下が隣国ミスティアへ輿入れする際、リーゼは王女に扮装をし、影武者を務めたのだ。リーゼに武芸の心得はなく、ただ姿形が少し似ているからという、そんな単純な理由で。
 王子及び王女の警護を主とする第二騎士団の長、ランドルフとの出会いもその時だ。
 一介の文官だったリーゼがいきなり団長室に呼び出され、「囮になれ」と端的に命令された時の衝撃は多分一生忘れられない。

「団長、あの時は私を守ってくださってありがとうございます」

 囮になったリーゼを襲撃犯から守ってくれたのはランドルフだ。リーゼが今生きているのは、間違いなく目の前のこの人のおかげ。
 もう何度言ったかわからないお礼の言葉を改めて口にすると、彼はふっと目を細めた。

「言っただろう、君のことは命に替えても守ると。俺はただ、役目を果たしただけだ」

 ――君のことは命に替えても守る。絶対に死なせたりはしない。

 当時の記憶が鮮やかに蘇る。
 灰褐色の真っ直ぐな眼差し。迷いのない言葉。
 思えばあの時、あの瞬間から、リーゼの心は彼に引き寄せられていた。
 当時感じていた甘い疼きが上乗せされて、リーゼの鼓動がどんどん高鳴っていく。
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