【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 リーゼの苦笑いは気付かれなかったようで、ランドルフはワイングラスを傾けながら再びリーゼの頭に手を滑らせた。
 剣だこのある、ゴツゴツとした男の人の手。リーゼの胸がうるさいほどにざわめく。ペットと同列としかみなされていないというのに、ときめいてどうしようもない。

「眠そうだな。そろそろ寝るか」

 俯いて黙りこむリーゼを見て、ランドルフは穏やかにそう言った。
 この時間が終わってしまうのが名残惜しい。もう少し一緒にいたいと思ったのも束の間、ランドルフはグラスの中のワインを一気に飲み干して立ち上がっていた。
 そうすると、リーゼも立ち上がる他ない。ランドルフの後に続いて、リーゼも食堂を後にした。

「もしかして、あの時からずっと夜は眠れていないのか?」
「へ?」

 階段を上っていると、ランドルフから不意にそう訊ねられた。一瞬、何を言われたのかわからず、リーゼは首を傾げる。
 だが、彼が指す「あの時」が二年前のことだと思い至り、酒精で赤らんだリーゼの頬がさらに紅潮した。

 体の内側で鳴る鼓動が早足になっていくのを感じながら、リーゼはゆっくりと首を横に振った。

「いえ。今日はずっと緊張し通しだったからか目が冴えちゃっただけで。いつもはぐっすり眠れているので大丈夫です」
「そうか。それならよかった。あの夜の君はとても怯えていたからな。トラウマになってもおかしくはないと思っていたんだ」
「確かにあの時は怖かったですけど……でも団長がずっと守ってくださいましたから」
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