【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 二年前、王女の身代わりとしてリーゼは襲撃犯に襲われた。もちろんランドルフが守ってくれたが、それでも殺されかけた恐怖はリーゼの体にべったりとこびりついていた。
 
 しかも犯人たちを振り切るために森の中に入り、一晩明かすことになってしまったのだ。己の身に降り注いだ凶事にすっかり怖気付き、眠るどころではなく、葉擦れの音にすら悲鳴を上げて震え、離れたところで仮眠をしていたランドルフを都度起こしてしまう始末だった。
 
 そんなリーゼを見かねて、彼は一晩中傍らで付き添い、リーゼが寝付くまでずっと他愛のない話をしてくれた。口数が多い方ではないというのに、子供のように怖がるリーゼに呆れることなく寄り添ってくれて。
 あの夜があったから、きっとあの体験がトラウマとして残らずに済んだ。ランドルフには感謝しかない。
 
「今日は、二年前と違ってちゃんと一人で眠れますから、大丈夫です」
「そうか、ならよかった」

 ポン、とランドルフの大きな手がまたリーゼの頭を撫でる。どうやら癖になってしまったらしい。

 階段を上りきり、とうとうリーゼの部屋まで辿り着いてしまった。
 名残惜しい気持ちに蓋をして、就寝の挨拶をしようとランドルフを見上げる。するとこちらを射貫くような力強い眼差しが返ってきた。リーゼは思わず息を呑む。
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