【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「……そうか、もうスターリングではないのか。今日からリーゼと呼ぶがいいか?」
「へっ?!えっ、あ、は、はい……」

 突然、名前で呼ぶ宣言をされ、リーゼは飛び上がるほど驚いた。それでも混乱しながら頷くと、ランドルフの唇がうっすら弧を描いた。
 
「おやすみ、リーゼ」
「お、おやすみ、なさい……」

 それだけ言うと、リーゼは逃げるように自室へ飛び込んだ。
 バクバクと鳴る鼓動がうるさい。全身が鳴り響いて、まるで自分が楽器にでもなってしまったよう。

(リーゼって……!)

 平凡な自分の名前が、彼の声帯から紡がれて特別な意味を帯びたようだった。
 リーゼは火照った両頬を手のひらで覆った。体から発するこの熱は、決してアルコールのせいじゃない。

(団長に、殺されそう……)

 色んな意味で先行きが不安になる。
 リーゼはほんの少し泣きそうになりながら、今日偽りの愛を誓った神に助けを求めるように空を仰いだ。
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