【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「俺は屋敷に戻って、こんな馬鹿げた話を持ち出した母を説得しなければならなくなった。スターリング、後は頼んだ」
「は、はあ……でも、その、剣は……使ったりしないですよね……?」

 騎士は帯剣が基本。しかし勤務時間外はその限りではない。
 眼光を鋭くするランドルフへ、リーゼは半ば牽制する気持ちで訊ねたのだが。

「……ないとは言い切れないな。家族といえど、時には武力を行使する必要もある」
「ま、待ってください!それはいけません!!」

 とんでもないことを言い出すランドルフの行く手を遮るようにリーゼが両手を広げた。
 ランドルフがムッツリと顔をしかめる。そして剣を再び机に立てかけた。ドサリと乱暴に椅子へ腰掛け、頬杖をついて大きなため息を吐き出している。
 
「…………冗談だ」

(絶対嘘だ……)

 リーゼがそう心の中で呟いたのは言うまでもない。

 さすがに仕事を放り出して母親に抗議をしに行くことは諦めたようだが、ランドルフはガシガシと後頭部を掻きむしり、苛立ちを隠さずにいる。
 
 その姿が、リーゼにはどうにも不思議でならなかった。

 なぜかランドルフは、常々「結婚はしない」と口にしていた。
 だが由緒正しいフォスター伯爵家の嫡男であるランドルフは、現在二十九歳。妻帯どころか子供がいてもおかしくない歳だ。

 それにこの国では、結婚してこそ一人前という風潮がある。独身者は人格に問題ありとみなされ、閑職へ追いやられたり、左遷されたりすることだって往々にしてある。
 妻帯せずに家督を継げば、嘲笑の的になるのは間違いないというのに。頑なに結婚を拒む理由がわからない。

 彼の母親であるフォスター伯爵夫人が息子の結婚に躍起になる気持ちの方がよっぽど理解できる。その手段は少々強引ではあるけれど。
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