【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
『ない、って言いたいところだけど、九割方仕掛けてくるだろうね。アディンセル公爵がこの好機を逃すはずがない』
『そう、ですか……やっぱり、裏で糸を引いているのは、アディンセル公爵家なんですね……』

 囮になれ、と言われただけで、リーゼは詳しい内情を一切聞かされていなかった。
 けれども黒幕の予想はついていた。この国の政治に関わる者なら、少し考えを巡らせればわかることだ。

 アディンセル公爵家は、この国の三大公爵家の一つとして数えられる大貴族である。その起源は古く、建国当時まで遡る。

 かつてエルドラシア王国は、三つの小国に分かれていた。
 そのうちの一国の長――のちにエルドラシア王国初代国王となるアレクサンダー・エルドラシアが、他二国を説き伏せて国を統一したことが始まりだった。

 エルドラシア国王を頂点とするものの、三国の王家にはそれぞれ公爵位が授けられた。
 それが、今の三大公爵家。建国から五百年の月日が流れた今なお、強大な権力を発揮している。

 三大公爵家は王家を支え、この国は長らく平和を享受してきた。
 だが平和の弊害なのか、近年では初代国王アレクサンダーによる国家統一は不当であった、との声が上げられるようになった。王政は廃止し、議会によって選出された首長が国を治めるべき、と。
 その主張の筆頭がアディンセル家だ。
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