【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
『ミスティアの王太子との婚姻による同盟も、元々はアディンセル公がまとめたものだからね。その話を王家が掻っ攫ったわけだから……王女を傷物にして、かわりに自分の娘を宛てがうくらいのことは、平気でやるだろうさ』

 恐ろしいことをサラリとのたまうベルに、リーゼの背筋は縮み上がった。
 
『わ、私……殺されたりしないですよね……?』
『それはさすがにないだろう。王家の暗殺は一族郎党死罪だ。裏で糸を引いている証拠が出れば、取り潰しは免れない。そんなことになったら自分の娘をミスティアに送り込む真似もできなくなるからね。それに何より、あなたの護衛にはランドルフ団長がついてる。団長は戦では負けなしだからね、安心していいよ』
『は、はい……』

 とは言いつつ、この状況でリラックスできるほどリーゼの肝は太くない。
 苦笑いで誤魔化していたのだが――馬車の速度がにわかに上がった。ガタガタと車体が揺れ始め、バランスを崩したリーゼの背が座席の背もたれに打ちつけられる。

『な、なに……?』
『どうやらきたようだね』

 ベルが眼光を鋭くした。
 何が、と言わずとも理解できた。
 
 敵襲だ。
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