【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(団長ならいくらでも相手はいると思うのに……)

 胸にツキンと痛みが走ったが、そこは知らぬふりを決め込む。

 ランドルフはかなりの美丈夫だ。

 闇夜を映し取ったような漆黒の髪は、絹糸のようにまっすぐなめらか。顔のパーツも全て、人が最も美しいと感じる場所に適切に配置されている。その様はまるで寸分の狂いもなく造られた彫像のよう。

 筋肉で大いに武装した男性が多い騎士の中では細身の方だが、しっかりと鍛え上げられた肉体は男らしく逞しい。そのうえ長身でスラリと手足が長く、騎士服が誰よりも似合うと評判だった。
 
 刃のように鋭い灰褐色の双眸だって、乙女の色眼鏡(フィルター)越しでは色気すらしたたって見える。

 表情が固い――というか常日頃から表情筋が仕事をしていないので、「鬼団長」と恐れる女性もいなくはないが、そんなところもクールでかっこいいと評する女性が圧倒的多数である。
 
 実際、夜会でもランドルフは常に女性に囲まれている、らしい……。夜会用のドレスを買うこともできない貧乏人のリーゼが、その真相を知ることはできないが。

 名門伯爵家の次期当主で家柄もいい。おまけに騎士団長という立場にもついており、王の覚えもめでたい。
 顔もよければ地位もある優良物件(ランドルフ)を、世の女性が放っておくはずないのに。
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