【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(これ、お供え用のお花よね……)

 花の種類に関係なく、白一色の花束は一般的に故人へ手向けるものとこの国では認識されている。
 幼子でも知っている一般常識だ。当然送り主も承知の上だろう。
 そこに込められた悪意をまざまざと感じ取ったリーゼは、肩をすくめつつそれを受け取った。

「ありがとう、ロバート。これはどなたからか聞いてる?」
「はい。タルボット男爵家のマリア様からだと」
「タルボット男爵家の……」

 家名を聞いて、リーゼは「またか」と額を押さえた。
 タルボット男爵家はヘインズ伯爵家と懇意にしており、娘のマリアはアナスタシアの取り巻きの一人だと記憶している。

(美しき友情ってやつかしらね……)

 アナスタシアの敵は、マリアの敵でもあるらしい。会ったこともない令嬢から嫌がらせを受ける身としては、たまったものではない。
 なにせこの贈り物と称する嫌がらせは、アナスタシアやその取り巻きのご令嬢から三日にあげず騎士団へ届くのだから。

「おや、またかい?」

 ハスキーな女性の声が突然背後から聞こえてきて、リーゼは椅子の上で小さく飛び上がった。
 振り向くと、ベルが背後からリーゼの手元を覗き込んでいた。今日も麗しい女性騎士に、目の保養ができたリーゼは顔を和ませる。
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