【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(でもこれが一番丸く収まるのよね。私が、本を買うのを我慢すればいいだけだもの)

 ランドルフのおかげで実家への仕送りもなくなったし、無駄遣いをしても飢える心配はない。
 毎月の楽しみである小説本を買うのを諦めればいいだけ。今月はお気に入りの小説作家であるマニュエルの新刊が発売されるので心待ちにしていたのだけれど、それを我慢すればいいだけ……。

(あー、読みたかったなぁ。マニュエルの新刊……)

 発売当日に読めないなんてファン失格だ。リーゼは心の中で泣いた。
 落ち込むのを誤魔化せずに肩を落としていると、目の前のロバートが物言いたげにリーゼを見つめているのに気がつく。

「あの、リーゼさん」
「なに?」
「このこと、フォスター団長に相談されないんですか?嫌がらせにしても頻度が多すぎますよ。どうせ大元はヘインズ伯爵令嬢でしょう?一度団長から抗議してもらった方がいいですよ」
「そうそう。アナスタシア嬢は尋常じゃないくらいしつこいからね。そのうち諦めるかもなんて思わない方がいいよ」
「そ、そんなに?」
「あの団長に全く相手にされていなくても長年しつこく付き纏ってる時点でお察しだろう?」

 肩をすくめて冷笑を浮かべるベルに、リーゼは何も言えない。まさしくその現場に居合わせていたのだから。
 
 ロバートも力強く頷きながら、胸の前で拳を握りしめている。
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