【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「団長、ロバートはただ騎士団に届いていた私宛の贈り物を届けてくれただけです。彼は何も関係ありません」
「なるほど。しかしデイビス」
「は、はい……」
「なぜいつまでもリーゼの元にいる?早く仕事に戻ったらどうだ?」

 ギロリと睨まれたロバートは、ひいぃっ!と情けない悲鳴をあげた。
 
「はいぃ!す、す、すみませんでした!」

 ビシッと背筋を伸ばしたかと思うと、ロバートは脱兎の如く自分の席へと戻っていく。

「ジェナー、お前もだ」

 続いてランドルフがベルを睨みつけると、彼女はやれやれと肩をすくめて、それからリーゼの肩をポンと叩いた。

「ま、頑張って」

(何が……?)

「リーゼ」
 
 呆気に取られながら一連の流れを眺めていたリーゼだったが、ランドルフに名前を呼ばれて肩を震わせた。ギギギッと錆びついた音がしそうなほどぎこちなく、彼の方へ向き直る。

「少しいいか」
「は、はい……」

 ドキドキドキドキ、と動悸が激しくなる。それは普段彼に対して感じるようなときめきを覚えたものではなく、不吉な予感めいたものだ。

「その花を持って、俺の部屋まで来てくれ」

 そう付け足すのを忘れず、ランドルフはカツカツとブーツを鳴らして団長室へ戻って行った。

(うぅ……)

 間違いなく、何があったのか聞かれるだろう。
 今からリーゼに待ち受けているのは騎士団長直々の尋問だ。言い逃れなどできる気がしない。
 さながら袋小路に追い詰められた泥棒のような心境で、ガックリと項垂れながらリーゼは彼に続いて席を立った。
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