【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「で。その不吉な花束は誰から贈られたものなんだ」

 団長室に入るなり、開口一番にそう訊ねられた。言葉が刃のように鋭く、リーゼの胸に突き刺さる。
 
 そんな彼を前にして嘘や誤魔化しでその場を取り繕う度胸など、リーゼは持ち合わせていない。
 おまけに彼はかなり頑固な性質だ。リーゼが正直に白状しない限り、解放してもらえないだろう。

 リーゼは観念して口を開いた。

「タルボット男爵令嬢のマリア様からです……」
「タルボット男爵令嬢……?君とはあまり関わりがなさそうだが、一体なぜだ?」
「な、なぜかは私にもよく分からずでして……」
「……まあ、そういうことにしておこう。これまでにもこうしたことはあったのか?」
「えーっと……いえ、そういうわけでは……」
「それは本当か?後で郵便係に君宛の荷物についての詳細を訊ねるぞ」

(それは隠しても無駄ってことですよね……)

 とどのつまり、いいからさっさと洗いざらい全て吐け、ということだ。

 迷惑をかけたくないと黙秘を続けたところで、遅かれ早かれ事実が暴かれるのであれば、なるべく早く白状した方がいい。
 自分の至らなさを強く自覚して打ちひしがれつつ、リーゼは今まで嫌がらせの品を送りつけてられていたことと、それらを送ったご令嬢の名前を白状した。
 最後にアナスタシアの名前を述べたところで、ランドルフの額に青筋がピキリと浮かんだ。

「そうか……全てはアナスタシアの仕業だな……」

 先月アナスタシアが来襲した時よりも、さらに顔が怖い。
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