【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 ランドルフはガタリと音を立てて、椅子から立ち上がったかと思うと、椅子にかけていた団服の上着をサッと羽織った。

「悪いが、リーゼ。出かける用事ができた。今日は騎士団には戻らないから、後のことはよろしく頼む。あと、この花束も俺からタルボット男爵に返しておく」
「は、はい……」

 花束を鷲掴み、険しい顔でランドルフは部屋を出ていく。止める暇もなかった。

 彼の行く先は十中八九、ヘインズ伯爵家だろう。アナスタシアの所業を抗議しに行くに違いない。

(私、迷惑しかかけてない……)

 こんな些細なことにもうまく対処できないなんて、ランドルフは呆れているんじゃないだろうか。
 彼が抗議に行ったのだって、リーゼのためというよりは家のためだ。リーゼが侮られたままでは、ランドルフの、そしてフォスター家の沽券に関わる。

 今のところリーゼは、ランドルフにとってただのお荷物でしかない。
 そんな自分が情けなくて、ため息が何度もこぼれ落ちる。肺の中の空気が底を尽きかけたところでようやく、リーゼは面を上げた。

「仕事、しなくちゃ」

 せめて仕事の上では彼の役に立ちたい。
 肩を上下させて鬱屈とした気持ちを無理やり吹き飛ばし、リーゼは気合十分といった面持ちで団長室を後にしたのだった。
< 57 / 170 >

この作品をシェア

pagetop