【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 ランドルフが屋敷に帰宅したのは、その日の夕食が終わった後だった。
 エイダからランドルフの帰宅を聞いたリーゼは、すぐさま部屋を飛び出し、階段を降りた。

 エントランスでは、帰宅したランドルフが執事のマーティンに上着を預けていたところだった。パタパタと足音を立てて駆けてくるリーゼに、ランドルフが目を瞠る。

「どうしたリーゼ、そんなに急いで」
「すみません……あの、どちらへ行ってらっしゃったか気になって……」
「ああ。叔父の元に行っていた。君に対するアナスタシアの所業は目に余るものだったからな。抗議をしに行った」

 やっぱり、とリーゼは申し訳なさから眉を下げた。
 
 結局ランドルフに尻拭いをさせてしまった。部下としても妻としても失格だ。自己嫌悪が極まって、海の藻屑にでもなりたくなる。

「すみません……団長のお手を煩わせて……」

 彼に迷惑をかけるだけの存在である己が心底情けない。目頭に力を込めてないと視界が潤んでしまいそうだった。

 俯いていると、ハアと小さなため息がリーゼのつむじに落ちてくる。
 もしかしなくても呆れている?
 いよいよ本格的に視界が滲みそうになった刹那、頭にポンと手が置かれた。

「少し話そう。マーティン、俺の部屋に酒を持ってきてくれ」

 思いのほか優しい声で、リーゼはおずおずと顔を上げた。
 ランドルフの命を受けたマーティンが腰を折り、エントランスから去っていく。それすらリーゼは屈折した気持ちで眺めていた。

(マーティンとエイダの前で叱らないようにしてくれたんだわ……私の名誉を傷つけないように……)

 彼の部屋で何を言われるだろう。
 もう少し上手く立ち回るように言い渡されるのは確実だ。
 この結婚に期限は定められていなかったけれど、今回の一件で妻という役目はリーゼには荷が重いと判断されたかもしれない。もしかしたら、王国法の規定に則って五年後に離縁をすると言い渡されるかも……。

 いずれにせよ、悪い予感しか生まれない。

 行こう、と促され、リーゼはトボトボとランドルフの後ろをついて行った。
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