【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「……俺はそんなに頼りにならないか?」
「……え?」

 そんな呟きを耳が拾ったのは、リーゼがグラスを取ろうと手を伸ばした瞬間だった。

 振り向くと、ランドルフがどこか皮肉げに唇を歪めて笑っている。
 どうしてそんな顔をしているんだろう?

 彼の心を言葉の中に見つけられなくて、リーゼは戸惑いがちに目を瞬かせる。
 ランドルフはグラスワインを一口に呷ると、しかめ面をしながら言葉を続けた。

「最初にアナスタシアから嫌がらせを受けた時に、なぜすぐに俺に言わなかった。あのままエスカレートしていたら、あいつは君に直接危害を加えていたかもしれないというのに」
「それは……」
「放っておけばそのうち収まるとでも思っていたか?残念ながら、あいつの執念深さは相当だ。最終的に君を地の果てまで追い詰めるくらいのことは平気でしただろうな」
「そ、そんなに……?」

 ベルも同じようなことを言っていたが、アナスタシアはかなり粘着質らしい。冗談とは思えない口ぶりにリーゼは椅子の上で思わず後ずさる。

「ああ、そうだ。だから君は最初から俺に頼るべきだった。なぜ、俺に何も言わないんだ。俺は君の夫だろう」

 その言葉が、リーゼの胸を容赦なく切り付けた。
 そう、ランドルフはリーゼの夫。それは間違っていない。間違っていないけれど――
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