【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

チケットは二人分

 ランドルフがヘインズ伯爵家へ抗議をしてから早一週間。
 ご令嬢方の嫌がらせ攻撃はそれからピタリと止み、再び日常に平穏が訪れたリーゼは活き活きと仕事に励んでいた。

「団長、こちらが再来月の演習予定です。問題がなければ判をお願いします。あと、財務係から来年度の予算計画書も上がっていますので、来週中までに目を通していただけますか?」
「ああ、わかった。予算についてはなるべく早く確認しておくことにしよう。修正もあるだろうからな」
「ありがとうございます。そうしていただけますと、財務係も助かるかと。それと第四騎士団から合同演習の申し入れが来ておりますが、そちらはいかがいたしましょう?」
「それは直接聞いている。そのまま話を進めてくれ」
「はい、かしこまりました」

 報告も終え、渡すべき書類を渡したリーゼが団長室を後にしようとした、その時。

「リーゼ」

 名前を呼ばれて踵を返そうとした足を止める。
 執務机を前に書類を眺めていたはずのランドルフが、先程とは違う真剣みを帯びた目で、リーゼを見つめていた。

(急ぎの案件は……なかったわよね?急遽で演習予定が入ったとか?)

 グルグルと頭の中であらゆる可能性を思い巡らせていたリーゼだったが、続くランドルフの言葉は予想と大きくかけ離れたものだった。

「何か欲しいものはないか?」
「…………欲しいもの、ですか?」

 質問が漠然としすぎている。
 理解が追いつかないまま、リーゼはとりあえず彼の言葉を反復した。頭の中は疑問符でいっぱいだ。
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