【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
(欲しいものって、騎士団の備品の話?あったらいいな、とかそういうもの?臨時予算でも割り振られたとか?何かあったかしら……あ、そういえば第三執務室の椅子が結構年季入ってるって誰かが言ってたような……)

「えっと、あの、椅子、ですかね?」
「椅子、か?」

 彼の意図がわからないまま、とりあえず思いついたものを口に出してみたのだが……眉間に皺を寄せたランドルフの顔には戸惑いが浮かんでいた。「正気か?」と、暗にそう問われているように聞こえるのは気のせいだろうか。

 とりあえず、答えを間違えたらしいことだけはわかった。
 
「備品の話ですよね……?」

 おずおずとそう問いかければ、返ってきたのは特大のため息。
 ランドルフは眉間を揉んで、至極わかりやすく呆れていた。

「そんなわけないだろう。リーゼ、君自身が欲しているものだ」
「わ、私のですか……?な、なんでまた……?」
「アナスタシアの件で君には迷惑をかけた。あれは一応俺の親族だからな。俺から君に詫びをしたいと思っている」

 その言葉に、リーゼはとんでもないとかぶりを振る。

「そんな!私はもう団長からたくさん援助をいただいています。これ以上、何かをいただくことなんてできません!」
「それとこれとは話が別だろう」
「そういうわけには……」

 リーゼが固辞し続けていると、ランドルフは駄々をこねる子供を眺めるような目つきで肩をすくめた。

「この間君が作ってくれたクッキーがとても美味かったから、その礼がしたい。それなら納得するか?」
 
 この前、休日に突如思い立ってエイダと一緒に作った焼き菓子のことを持ち出されて、リーゼは頬に朱を刷いた。
 彼に喜んでほしくて、その日は彼の好物であるレモンクッキーや他にもいろいろ焼き菓子を大量作ったのだ。
< 64 / 170 >

この作品をシェア

pagetop