【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 焼き菓子を食べている間、ランドルフは何度も『美味い』と褒めてくれた。
 こうして時間を経ってからも話題にしてもらえると、本当に喜んでもらえたのだとわかって嬉しくなる。

「そういうことなら……でも、欲しいものって言っても、そうそう思い浮かばなくて……」

 実際、頭の中でパッと思い浮かぶものはない。苦笑いを浮かべるリーゼに、ランドルフは不思議そうに首を傾げた。
 
「別に難しく考えなくていい。何かしら欲しいものくらいあるだろう。ドレスでもアクセサリーでも、なんでもいい」
「は、はい……そうですね……」

 貧乏だったゆえに、リーゼは物欲が薄い。それにドレスもアクセサリーも、結婚した際にランドルフから一通り贈ってもらっている。恐らくリーゼの持ち物があまりにも少なかったので、恥をかかないようにと気を回してくれたのだと思うが。それで十分、事足りていた。

 強いて言うなら本が欲しいけれども……贈り甲斐がなさすぎるだろうか。挙げたところで「他に何かないのか」と間髪入れずに訊ねられそうだ。

 うーん、と首を捻る。申し訳なくは思うものの、折角の彼の好意を無駄にしたいわけではないから。

(本以外で……欲しいもの……欲しいもの……あ!)

 頭に閃くものがあって、リーゼは目をきらめかせてランドルフを見た。

「あの、物じゃなくてもいいですか?」
「うん?それは構わないが、何がいいんだ?」
「……歌劇を観たいんです」
「歌劇?」
「はい。好きな作家が脚本を書いた舞台が今王都で上演されていて、一度見てみたいと思っていたんです。そのチケットを手配していただくことは可能でしょうか……?」
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