【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 リーゼは貴族令嬢にも関わらず、生まれてこの方、観劇というものをしたことがなかった。
 両親は演劇に関心がなかった上に、己の欲望に忠実だったので、教養のために娘を観劇に連れていくなんて発想はなかったのだ。
 
 歌劇のチケットは一般席であってもそれなりに高額で、これまで月収の半分を仕送りしていたリーゼには当然手が出なかった。
 お気に入り作家の書き下ろし脚本という垂涎ものの舞台であっても、チケットを買うことすら端から諦めていたのだが。

(一般席のチケット一枚ならドレス一着買うより全然安いし、これくらいの我儘なら許されるわよね……?)

 期待を込めてランドルフを見つめると、彼は目を細めて首肯した。
 
「わかった。すぐに手配しよう」

 そう請け負ったランドルフの行動は確かに早かった。
 翌日の夕食の席で「週末のチケットを手配した」と聞かされたのだから。
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