【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

「それに、親族付き合いも契約のうちだと思っています。もちろん、嫌々ってわけではないですよ？お義母様たちにさそっていただけるのは純粋に嬉しいですし。でも、私は対価を頂いてランドルフ様の妻になっているんですから、私への負担なんて気になさらないでください」

　この言葉は自分に向けて放った言葉でもある。
　この結婚はお互いの利益のために結んだ、愛のない結婚。
　常々、己のそう言い聞かせていないと、ランドルフの優しい態度に何か意味を見出してしまいそうで怖かった。

　強がりを悟られないように、上げた口角をもう一段持ち上げる。
　するとランドルフは下唇をギリッと噛み締めたかと思うと、どうしてか投げやりな態度で嘲笑を漏らした。

「ハッ……そうだな。契約、だからな」
「……ランドルフ様？」
「いや、なんでもない。すまないが、契約通りよろしく頼む」
「は、はい……」

　途端にランドルフのまとう空気が刺々しいものになる。
　視線を逸らされ、目も合わない。

（私、変なこと言った……？）

　怒らせてしまったのかもしれない。でも自分の発言の何が引き金となって彼が不機嫌になったのかがわからない。
　戸惑っている最中、不意に扉がノックされ、ボーイがシャンパンを運んでくる。
　乾杯をしても依然としてランドルフの口数は少なく、リーゼも気の利いたことを言えなくて、チビチビとシャンパンを飲むだけだった。