【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
　二人きりの空間で、そこはかとない居心地の悪さを感じていると、ほどなくして場内が暗くなり、あちこちから拍手が湧き起こる。
　つられて拍手をしていたリーゼだったが、舞台に明かりが灯ると、次第に意識は舞台に釘付けになっていた。幕が開いて現れ出た、宮廷を模した絢爛豪華な舞台装置に思わず目を奪われる。
　
　恋愛小説の名手であるマニュエルが手がけたこの歌劇は、対立する二つの公爵家の男女が恋に落ちるという筋書き。
　仮面舞踏会で出会った素性を知らずに惹かれあった二人。だが、男の実家である公爵家が王家に叛逆の意を示したことで、二人は国家を揺るがすほどの政争に巻き込まれていく。

　明言はされていないが、この国の三大公爵家のうちの二家がモデルになっており、王家に反旗を翻す公爵家は実在のアディンセル公爵家に重なるものがある。

　切迫したストーリー展開に、リーゼは終始舞台から目が離せなかった。
　終盤、王家に敗北した公爵家の一族が、主人公である青年諸共処刑されると決まった時、ヒロインが涙ながらに愛を乞いアリアを歌う場面では、リーゼも一緒に涙を流していた。

　涙はその後も止まらず、リーゼは顔をぐしょぐしょに濡らしながら食い入るように舞台を見つめ続ける。
　ヒロインが兄と共に青年を助け出す場面では、両手を握りしめて上手くいくことを祈り、逃げ出した二人が地位も何もかもを捨て、異国で二人で生きていくことを誓った決意のデュエットが始まると、もう視界が歪みに歪んで何も見えなくなった。
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