【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 手元のハンカチがぐっしょり濡れて使い物にならなくなったところへ、隣から新たなハンカチが差し出される。

「あ、ありがとう、ござい、ます……」

 嗚咽混じりにお礼を言うと、ランドルフは苦笑していた。

「君がそんなに泣いているところは初めて見たな」
「わ、私、こういう恋愛物には弱くて……」

 何か嫌なことがあった時はいつも、こういった悲劇的展開のある恋愛小説を読んでは涙を流し、ストレスも一緒に洗い流していた。
 一人の時に感情を高ぶらせているおかげで、人前では大抵平常心を装うことができる。ランドルフが、感情を露わにしたリーゼを見たことがないのも当然だった。

「ごめんなさい、見苦しくて……もうちょっとしたら治まると思いますから……」

 化粧も剥がれ落ち、見るに耐えない顔になっていることは十二分に想像がつく。醜態を晒している自覚はあるが、すぐに涙を引っ込めることもできず、リーゼはハンカチで顔を隠した。

 すると突然視界が暗くなり、体をグッと強く引き寄せられた。頬に布らしきものが密着し、接触した部分から温もりが伝わってくる。同時に腰に腕が巻きつけられて、リーゼは自分が抱きしめられているのだと理解した。

「見苦しいとは思わないが。気になるならこうして隠しておけばいい」
「で、でも……」
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